このページの要点
- 医行為は「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」(最高裁令和2年9月16日決定)。
- レーザー等で毛乳頭を破壊する脱毛、ケミカルピーリング、アートメイクは医行為とされている。ハイフも厚生労働省の通知(令和6年6月7日付)で医行為とされ、医師以外が業として行えば医師法17条違反とされている。
- 施術同意書は免責のお守りではない。全部免責は消費者契約法8条で無効。通常の反応と過失を区別する基準、申告義務、説明者の記録を備える。
- 安全のために施術を中止した場合は、回数を消化させない。事故の対応の主体は店とし、負担の分担と保険を決めておく。
医行為とは
医師法17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。ここでいう医業は、医行為を反復継続する意思をもって行うことです。最高裁令和2年9月16日決定は、医行為を「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と定義しました。名称や看板ではなく、行為の実質で判断されます。
エステで問題になりやすい施術
| 施術 | 考え方 | エステでの注意 |
|---|---|---|
| レーザー脱毛 | 厚生労働省の通知(平成13年11月8日付)で、レーザー光線等で毛乳頭・皮脂腺開口部等を破壊する行為は医行為とされている | エステで行えば医師法違反 |
| 光脱毛(IPL等) | 同じ通知は、機器が医療用か否かを問わず、レーザーに限らず強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射して毛乳頭等を破壊する行為を医行為としている | 「減毛」「抑毛」の範囲にとどまる機器と出力か、施術後の反応はどうか |
| ケミカルピーリング | 同じ通知で、薬剤を用いて皮膚の表面を剥離する行為は医行為とされている | 薬剤の種類・濃度にかかわらず、エステのメニューにしない |
| アートメイク | 針先に色素を付けて皮膚に入れる行為は平成13年の通知で医行為とされ、令和2年の最高裁決定の後も厚生労働省の通知(令和5年7月3日付ほか)で、名称を問わず医師以外が業として行えば医師法17条違反であることが確認されている | エステ・眉サロンで行わない |
| ハイフ(高密度焦点式超音波) | 厚生労働省の通知(令和6年6月7日付)で、機器が医療用か否かを問わず、HIFUを照射して細胞に熱凝固を起こさせ得る行為は医行為とされ、医師以外が業として行えば医師法17条違反とされている。熱傷や神経障害などの事故も報告されている | エステのメニューにしない |
| 脂肪冷却 | 機器の性能や施術の方法によって評価が分かれる | 機器の承認・認証の有無、製造元の用途の指定を確認 |
特定商取引法施行規則91条と消費者庁の解釈通達は、特定継続的役務の「美容医療」の範囲として、光の照射や針を通じて電気を流す方法による脱毛、光・音波の照射や薬剤、機器を用いた刺激によるしみの除去や皮膚の活性化、脂肪の減少などを挙げています。エステで同種の機器を使う場合は、特定商取引法上どちらの類型か(エステか美容医療か)という問題と、医師法上医行為に当たるかという問題が、別々に生じます。前者は中途解約の上限額や関連商品の範囲に、後者はそもそも提供してよいかどうかに関わります。
事務所の作成例:名称を言い換えても、実質で判断される
脂肪冷却を含む申込契約書
修正前「非医療的冷却施術」
修正後「冷却施術」
「非医療的」と自称しても医療に当たるかどうかは行為で決まるため、表現だけで安全を装う書き方をやめた
看護師・医療資格者がエステを開く場合
看護師などの医療資格を持つ方がエステや美容系のサービスを始める例も増えています。看護師の業務は療養上の世話と診療の補助で、医行為に当たる診療の補助は医師の指示のもとでしか行えません。看護師の資格があっても、医療機関の外で医師の指示なく医行為を行うことはできません。医療資格を持つ事業者の美容系講座を支援したときは、「美容看護師」は法律上の資格名ではないため「看護師資格を有する」旨の表示に整理し、できることとできないことを次のように区分しました。
| できること | できないこと |
|---|---|
| 一般的なスキンケアの情報提供 | 症状から疾患の有無や種類を判定すること(診断) |
| 化粧品の効能の範囲内での説明 | 医薬品の使用や中止を指示すること |
| 医療機関の受診を勧めること | 医師の指示のない機器の使用や、医行為に当たる施術 |
医療従事者向けの機器講習の契約書類を作成した際も、人体への照射は医師または医師の指示を受けた看護師等に限ること、受講者自身は照射しない見学形式であることを、ヒヤリングで確認したうえで条文にしました。修了したことを広告に使う場合の医療法の広告規制にも触れています。
施術同意書は「説明の記録」と「責任の分かれ目」
機器を使う施術では、施術同意書が欠かせません。ただし、施術同意書は「何があっても責任を負わない」ためのお守りではありません。お客様が消費者である以上、事業者の責任を全部免除する条項や、故意・重大な過失による責任を免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項)。同意書は、申告・説明・同意の記録として機能させ、通常の反応と施術上の過失とを区別する基準を示す書面として作ります。
事務所の作成例:美容施術同意書(依頼者の原案へのレビューと修正版)
全体の評価
修正前施術内容、医療行為でない旨、複数回の必要性、効果を保証しないこと、禁忌、施術後の反応、ホームケアの義務など、説明事項は広く網羅されていた。ただし説明文の集積で、法的な効果に結び付いていなかった
修正後説明事項を残したうえで、責任の分かれ目、申告義務、リスクの受容、契約との関係、説明者の記録を備えた書面に作り直した
「説明した」証拠としては十分でも、トラブルのときに誰が何を負うかが書かれていなければ、契約書として機能しないため
責任の分かれ目
修正前定めなし
修正後赤み・かゆみ・乾燥・軽度の炎症など、通常想定される範囲の反応であれば、その発生だけを理由に責任を追及しない
通常の反応と、施術上の過失による損害とを区別する基準を示した
申告と遵守
修正前申告のお願いのみ
修正後健康状態・既往歴・服薬・皮膚の状態を正確に申告する義務と、申告の不備や指示違反による結果の負担。保湿・紫外線対策・刺激の回避などのアフターケアの遵守
体質や申告漏れ、ホームケアの不履行による結果を、施術の過失と区別するため
同意の内容
修正前「説明を受け理解しました」の確認のみ
修正後質問の機会を与えられ回答を得たことの確認、リスクの受容、主観的な満足に達しないことだけを理由とする請求の制限
事実の確認にとどまらず、リスクを理解したうえでの同意であることを記録する
契約との関係と記録
修正前定めなし
修正後同意書は施術契約の一部を構成し、食い違う場合は契約が優先。利用者の署名欄と、説明者の氏名欄を設ける
説明義務を果たしたことを、誰が・いつ説明したかまで立証できるようにする
施術を断る・中止する基準(禁忌)
機器を使う施術では、施術を断る・中止する基準を、同意書と規約の両方に具体的に書いておきます。事務所の作成例で挙げた項目を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 皮膚の状態 | 重度の皮膚疾患・炎症・感染症・傷がある、施術部位に強い日焼けがある |
| 体調・身体の状態 | 妊娠中・産後間もない、発熱・体調不良、飲酒後 |
| 持病・服薬 | 心疾患・高血圧・血液疾患などの持病、抗凝固薬など服薬中、ペースメーカーなど体内に医療機器がある |
| 前後の施術 | 施術の前後に強い日焼けの予定がある、美容整形やレーザー等の医療施術から間がない |
| 申告 | アレルギー・既往症・服薬の申告漏れや虚偽、申告の拒否 |
| その他 | 医師の診断・治療・経過観察が必要とスタッフが判断した場合 |
あわせて、お客様には健康状態を事前に、かつ継続的に申告する義務を、サロンには必要に応じて医師への相談や診断書の提出をお願いできることを定めておきます。脂肪冷却を含む申込契約書では、修正版で「スタッフが当日の体調等から安全上の懸念があると判断して施術を中止・制限した場合は、1回分を消化扱いにしない」と追加しました。安全のための中止をためらわない仕組みです。
事故が起きたときの流れ
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 初期対応 | 施術者は直ちに応急措置を行い、店に報告する。拡大を防ぐ |
| お客様への対応 | 対応の主体は店。施術者は協力する。最終的な対応方針と対外的な説明は店の判断に従う |
| 医療機関 | 必要に応じて受診を勧める。受診の費用の扱いを決めておく |
| 負担の分担 | 施術者に責めがあれば程度に応じて賠償し、店が賠償した場合は責めの割合で求償。店の設備・材料・指示に起因する分は店が負担 |
| 保険 | 施術者は賠償責任保険への加入等に努め、求めがあれば加入状況を知らせる。店も施設賠償・生産物賠償を確認 |
衛生面では、器具の洗浄・消毒、店が承認した薬剤・材料だけを使うこと、新しい材料は事前の承認を得ること、施術前に内容と健康被害のリスク・施術後の注意を説明して所定の同意書を取ること、皮膚や体調から不適当と判断したら中止・変更して報告することを、施術者の遵守事項として定めた例があります。スタッフとの契約についてはエステティシャンとの業務委託契約のページで詳しく解説しています。
機器を導入するときの確認
エステの機器は高額で、購入やリースの契約は事業者どうしの契約になるため、消費者向けの保護は原則として受けられません。導入の前に、次の点を確認しておきます。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 医療機器の承認・認証を受けた機器か | 医療機器であれば、エステでの使用自体が医行為の問題になりうる |
| 製造元が想定する用途と出力の範囲 | 用途外の使い方や、高い出力での使用は事故と違法性の原因になる |
| 販売店の説明(「エステで使える」「医療機器と同等」)の根拠 | 説明が事実と違えば、契約の解除や損害賠償の問題になるが、事業者どうしの取引では立証が難しい |
| リース契約の中途解約の可否 | リースは原則として中途解約ができず、残りのリース料の支払義務が続く |
| 保守・修理・消耗品の費用と期間 | 故障で施術できない期間の売上と、お客様への振替の対応 |
| 事故時のメーカーの対応 | 機器の欠陥による事故は、製造物責任の問題になりうる |
カウンセリングシートの作り方
カウンセリングシートは、施術を断る基準を判断するための情報を集める書類であると同時に、要配慮個人情報を取得する書類でもあります。事務所が作成したエステのプライバシーポリシーでは、体調・既往歴・皮膚の状態・施術の履歴を「要配慮個人情報を含む」ものと位置づけ、明示的な同意なく取得しないこと、同意の目的の範囲内でのみ利用すること、同意なく第三者に提供しないことを定めました。
- シートの冒頭に、取得する情報、利用の目的、保存の期間を書き、同意の署名欄を設ける
- ウェブフォームでカウンセリングシートを受け付ける場合は、冒頭に同意の文章と必須のチェック欄を置く
- 肌の写真を撮影して記録する場合は、写真の利用目的(施術の経過の確認)と、広告への利用の有無を分けて同意を取る
- 閲覧・購買の履歴を分析した広告に使う場合は、その利用目的をプライバシーポリシーに明記する
- 施術の可否の判断に関係のない情報は、取得しない
よくあるご質問
エステサロンで脱毛はできますか?
レーザー光線等で毛乳頭などを破壊する脱毛は医行為とされ、医師でなければ行えません(医師法17条、平成13年の厚生労働省通知)。光脱毛でも、毛乳頭を破壊する程度の出力や方法であれば同様に評価されうるため、機器と出力の確認が欠かせません。
エステでハイフの施術をしてもよいですか?
ハイフは、厚生労働省の通知(令和6年6月7日付)で、医師以外の者が業として行えば医師法17条違反になるとされています。エステでは提供できません。
施術名を「ケア」に変えれば医行為にならないですか?
なりません。医行為に当たるかどうかは、名称ではなく行為の実質で判断されます(最高裁令和2年9月16日決定の定義)。
施術同意書に「一切責任を負いません」と書けば安心ですか?
お客様が消費者の場合、事業者の責任を全部免除する条項は消費者契約法8条により無効です。同意書は、申告・説明・同意の記録と、通常の反応と過失とを区別する基準を示す書面として作ります。
看護師資格があれば、エステで医療機器を使えますか?
看護師の業務は療養上の世話と診療の補助で、医行為に当たる診療の補助は医師の指示のもとでしか行えません。医療機関の外で医師の指示なく医行為を行うことはできず、「美容看護師」も法律上の資格名ではありません。
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