このページの要点
- 委託する業務(施術・カウンセリング・物販・販促・運営補助・育成)を区分し、範囲ごとに報酬と責任を決める。
- 歩合は施術の実施回数を基準にすると、中途解約の精算と自然にそろう。契約時基準なら返金時の調整条項が必要。
- スタッフの勧誘で特定商取引法に違反すれば、行政処分は店が受け、罰則はスタッフと店の双方に及びうる。勧誘ルールを遵守事項にし、契約書面に担当者の氏名を記載する。
- 研修費用は定額の違約金ではなく、実費の負担と勤務継続による免除の仕組みで組み立てる。
エステの業務委託契約で決める範囲
事務所が作成したエステ系の業務委託契約書では、委託する業務を次のように区分して書いていました。どこまでを委託するかで、報酬の決め方も、店が負う責任も変わります。
| 区分 | 内容 | 契約で決めること |
|---|---|---|
| 施術 | フェイシャル、ボディ、店が指定するメニュー(化粧品を用いた角質ケアなど、医行為に当たらないものに限る) | 施術できるメニューの範囲、使用する機器・材料 |
| カウンセリング | 施術前後のカウンセリング、施術後のアフターサポート | 健康情報の取扱い、同意書の取得手順 |
| 物販 | 化粧品の販売・説明、在庫の管理 | 物販の歩合、販売トークのルール |
| 販促 | SNSに使う素材の作成、ブログ、口コミのお願い | 写真・投稿の権利、ステルスマーケティング規制への対応 |
| 運営の補助 | 予約対応、施術スペースの整理整頓と衛生管理 | 労働者性を疑われない範囲の設定 |
| 育成 | 新人のトレーニング、担当顧客へのオンライン対応 | 育成業務の報酬の有無 |
報酬の設計:施術・物販・指名、そしてコースの返金
素材の契約書では、施術売上に対する一定割合の歩合を基本に、平日の昼と夜間・土日祝で料率を変える例、月間の売上に応じた段階制の例、物販は施術より低い料率、指名料は全額を施術者に帰属させる例が見られました。物販の歩合を、販売価格と仕入価格の差額に一定率を掛ける計算式で書いた例もあります。
エステで特に決めておきたいのが、コース代金の扱いです。コースの契約時に受け取った代金をもとに歩合を払うと、お客様が中途解約して未提供分を返金したとき、店は返金しながら歩合も払った状態になります。施術売上を「返金・値引き・キャンセルを差し引いた後の金額」と定義した例はありますが、さらに、歩合は施術を実施した回数を基準に計算する(コース代金を回数で割った単価×実施回数)方法にしておくと、中途解約の精算と歩合の計算が自然にそろいます。
計算例:12回コース12万円・施術歩合40%・4回実施後に中途解約
| 契約時の一括受領を基準にした場合の歩合 | 120,000円 × 40% = 48,000円(契約時に確定) |
|---|---|
| 中途解約の返金 | 提供済み40,000円+損害8,000円を差し引き、72,000円を返金 |
| 実施回数を基準にした場合の歩合 | 10,000円 × 4回 × 40% = 16,000円 |
契約時の受領額を基準にすると、返金の後も48,000円の歩合が残る。実施回数基準なら、歩合は提供した施術に見合った額になる
契約時基準を採るなら、返金時に未提供分に対応する歩合を調整する(差し引く・返還を求める)条項と、その計算方法を事前に合意しておく必要があります。
スタッフがコースを勧誘するときの責任
業務委託のエステティシャンがお客様にコースを勧め、契約書面に署名をもらう場面は少なくありません。このとき、特定商取引法上の役務提供事業者は店であり、勧誘の際の不実告知や威迫(同法44条)、書面の不備について行政処分を受けるのは店です。不実告知や威迫には罰則もあり、実際に勧誘したスタッフ本人と店の双方が処罰の対象になりえます(同法70条・74条)。契約書面には、契約の締結を担当した者の氏名を記載する必要があります(施行規則93条2項2号)。
- 勧誘のルール(禁止される言動、効果の説明の範囲、クーリング・オフの説明)を、業務委託契約の遵守事項として定める
- 店が作成したトーク集や説明資料を使うこと、独自の効果説明や値引きの約束をしないことを定める
- 契約書面の交付と説明の手順を決め、担当者として氏名を記載することへの同意を得ておく
- コースの販売に強い歩合を付ける場合は、過度な勧誘につながらないよう、上限や評価の仕組みと組み合わせる
- お客様からの解約の申出を受けたら、引き止めずに店に引き継ぐことを定める(解約の妨害は不実告知・威迫の問題になる)
労働者と判断されないための書き方
業務委託契約書を交わしていても、実際の働き方が雇用と変わらなければ、労働者と判断されることがあります。事務所が修正したエステ系の業務委託契約書では、次のような書き換えをしました。
事務所の作成例:エステ系業務委託契約書(依頼者との協議を踏まえた改訂)
マニュアルの扱い(フェイシャル中心)
修正前店が指定するマニュアル等を遵守する
修正後店がお願い・共有するマニュアル等を尊重し、遵守に努める。業務の改善は協議する
指定と遵守の義務づけは、指揮命令を強く疑わせる
勤務日数・時間(同上)
修正前勤務日数と時間を定める
修正後日数・時間は目安とし、時間帯の共有は運営上の調整が目的で、裁量を制限せず法的な拘束力もないと明記
時間的な拘束は、労働者性の判断で重視される要素
権利の放棄(エステ・リラク)
修正前「労働基準法その他の労働関係法令に基づく権利を主張しない」
修正後この一文を削除し、「業務を受けるかどうかはその都度自由に判断できる」「店は勤務時間を指定せず、進め方を具体的に指示しない」と平易に書き直した。違反時の「委託停止」も「依頼の見直し」に改めた
権利放棄の条項は効力が疑わしいうえ、かえって雇用の実態を疑わせる
品質と保険(まつげ・眉・エステ複合)
修正前定めなし
修正後技術・接客のチェックに定期的に合格すること、店が指定する美容保険に加入することを遵守事項に。物販の歩合を新設し、税別であることと支払日・休日の扱いを明記
品質や保険を、指揮命令ではなく取引の条件として書く
報酬の税(フェイシャル中心)
修正前消費税込み・源泉徴収なし
修正後税別とし、消費税相当額を加算して支払う
報酬の税込・税別の曖昧さは、支払のたびに争いになる
一方で、店側の要望を強く反映した型もありました。予約時刻の一定時間前までの出勤義務、遅延の記録と解除、店外での施術の禁止、契約終了後の長期・広域にわたる競業禁止などです。出勤時刻の指定は労働者性の判断で、広域・長期の競業禁止は公序良俗の観点で、争われやすい論点です。なお、同じ契約書にあった「店の都合で確定した予約がキャンセルになった場合は、予定していた報酬の一部を補償する」という条項は、施術者が安心して予定を空けられる工夫として参考になります。
研修費用の扱い
エステでは、未経験者に技術研修を行ってから施術を任せることが多く、研修後すぐに辞められた場合の費用をどうするかが問題になります。事務所が依頼者のたたき台を全面的に起案し直した眉毛施術とフェイシャルのサロンの契約では、次のように組み替えました。
事務所の作成例:研修費用の条項(眉毛施術+フェイシャル)
費用の負担
修正前一定の施術数に達する前に契約が終了したら、定額の違約金を支払う
修正後研修費用の実費負担の合意に組み替え。1枠あたりの単価(人件費・材料・モデルの手配・施術室)×実施した枠数で上限額を明示し、研修の都度記録して共有する
定額の違約金は、労働者と判断されれば全部無効になりうる。実費の負担に改め、金額の根拠を示した
免除の仕組み
修正前定めなし
修正後累計の施術数に応じて免除。一定数を超えたら半額以上、さらに超えたら全額を免除
長く働くほど負担が減る仕組みで、合理性を持たせた
請求できる場面
修正前契約の終了理由を問わない
修正後施術者の都合による終了などに限る。研修の不合格、店の都合、傷病・妊娠・育児・介護、期間満了では請求しない
本人に責めのない終了まで請求する定めは、過大と評価されやすい
報酬との相殺
修正前報酬から差し引く
修正後相殺は個別の同意がある場合に限る。解約そのものの違約金や損害賠償額の予定ではないことを確認する条項を置く
一方的な相殺は、報酬の不払いとして争われる
美容室の講習費の返還特約を無効とした裁判例と、本人の自由な意思に基づき本人の利益になる研修の費用の返還の合意を有効とした裁判例があり、その分かれ目を意識して設計します。採用にかかった費用を、辞めた人に請求する運用は無効とされる危険が高いものです。
事故・資格・保険
- 施術事故が起きたら、施術者は応急措置と店への報告を行い、お客様への対応の主体は店とする。施術者に責めがあれば程度に応じて負担し、店の設備・材料・指示に起因する分は店が負担する
- 器具の洗浄・消毒、店が承認した薬剤・材料の使用、施術前の説明と同意書の取得、不適当な場合の中止と報告を遵守事項とする
- まつ毛エクステンション・まつ毛パーマなど美容師法の業務に当たるメニューや、カミソリを使う眉の処理(理容師法の顔そりに当たる)を任せる場合は、法令上必要な免許の保有を表明・保証してもらう
- 施術者は賠償責任保険への加入に努め、店も施設賠償・生産物賠償の加入状況を確認する
施術同意書と事故対応の詳しい書き方は、脱毛・ハイフと医師法、施術同意書のページをご覧ください。
顧客の帰属と、終了後の競業
| 項目 | 素材の契約書での定め方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 顧客情報の帰属 | 対応した顧客・見込客・休眠客の情報は店に帰属し、終了後も勧誘・引き抜きを禁止 | 店のシステムに残る情報と、施術者の個人の連絡先の線引き |
| 終了後の競業 | 終了後6か月・店舗から半径数km、または顧客に限定して終了後1年 | 依頼者が広い範囲を希望した例でも、都市部の店舗では狭い範囲を採用 |
| 期間中の他店勤務 | 全面禁止ではなく承諾制 | 全面禁止は、労働者性を疑わせる要素になる |
| 予約の振替 | 施術者が対応できない予約を、お客様の同意を得て他の施術者が担当できる | 代わりの人が担当できること(代替性)は、労働者性を下げる要素 |
フリーランス法への対応
従業員を使わない個人のエステティシャンに業務を委託する場合、2024年11月に施行されたフリーランス法の対象になることがあります。事務所の作成例では、契約書とは別に「取引条件の明示書」を別紙として作り、業務の内容、報酬の額、支払期日などを明示する形をとりました(同法3条)。店が従業員を使用している場合や、役員が2人以上いる法人である場合は、受領から60日以内の報酬の支払期日の設定(同法4条)、6か月以上続く委託を解除・更新しない場合の30日前までの予告(同法16条)、ハラスメントへの対策(同法14条)なども必要になります。
施術者のSNSと、店の情報
指名を増やしたいエステティシャンにとって、自分のSNSでの発信は欠かせません。一方で、店の顧客情報や店内の様子、施術の写真が無断で投稿されるのは、店にとって大きなリスクです。素材の契約書には、次の2つの書き方がありました。
| 型 | 定め方 | 向いている店 |
|---|---|---|
| 制限型 | 店の名称・顧客情報・施術内容・店内の様子を、承諾なく投稿しない。顧客の容貌や施術の状況の写真・動画も含む。店の信用を損なう発信をしない | ブランドの統一を重視する店、顧客のプライバシーへの配慮を重視する店 |
| 許容型 | 顧客の同意を得て撮影した施術写真を、自分のSNSに載せることは、店が個別に禁止しない限りできる | 施術者の指名を増やして集客したい店 |
どちらの型でも、モデルやお客様に見返りを渡して投稿をお願いする場合は、ステルスマーケティング規制(景品表示法)により、広告であることを示す表示が必要です。施術者が個人のSNSで店の宣伝をする場合も、店の広告として扱われることがあります。
契約が終わるときの引継ぎ
- 担当していたお客様のカルテ(カウンセリングシート・施術記録・同意書)は店に帰属させ、終了時に返還・削除してもらう
- 残っている予約の振替と、お客様への案内の方法を決める(施術者が個別に連絡して、別の店に誘導しない)
- 店から貸与した機器・制服・鍵・アカウントの返却
- 未精算の報酬と、研修費用の負担がある場合の精算の時期
- 契約終了後の秘密保持と、競業の制限の範囲の確認
よくあるご質問
エステティシャンにコースの勧誘を任せてもよいですか?
任せることはできますが、特定商取引法上の役務提供事業者は店で、行政処分を受けるのは店です。不実告知や威迫には罰則もあり、勧誘したスタッフ本人と店の双方が処罰の対象になりえます(同法70条・74条)。勧誘のルールを業務委託契約の遵守事項として定め、契約書面には担当者の氏名を記載します。
コースの歩合は、契約時の代金と施術の実施のどちらを基準にすべきですか?
中途解約の返金と整合させやすいのは、施術の実施回数を基準にする方法です。契約時の代金を基準にする場合は、返金時に未提供分の歩合を調整する条項を事前に合意しておく必要があります。
研修費用を、早く辞めたエステティシャンに請求できますか?
定額の違約金として定めると、労働者と判断された場合に無効になりうるうえ、過大と評価されやすくなります。実費の負担の合意として金額の根拠を示し、勤務の継続による免除や、本人に責めのない終了では請求しない仕組みにしておきます。
業務委託のエステティシャンが辞めた後、近くで開業するのを禁止できますか?
期間・地域・対象を絞れば定められますが、広すぎる制限は無効とされるおそれがあります。素材の契約書では、終了後6か月・半径数km、または顧客に限定して1年とする定め方が中心でした。
エステの業務委託契約に、フリーランス法は関係しますか?
従業員を使わない個人に委託する場合は対象になることがあります。取引条件の明示が必要で、店が従業員を使用している場合などは、60日以内の支払期日、解除の30日前予告、ハラスメント対策なども求められます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別のサロンに必要な対応は、メニュー、使用する機器、料金の受け取り方、勧誘の方法によって異なります。事務所の作成例・相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたエステサロン・美容施術サービスの契約書、法定書面、規約、同意書、業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 厚生労働省 / 国民生活センター