このページの要点
- 営業権と什器の譲渡では、機器を目録で特定し、動作確認と保証の範囲、ロイヤリティが生じないことを明記する。
- 前受金のあるコース・回数券は、承継する契約の一覧、残回数、前受金の精算、承継しない契約の返金負担を譲渡契約で決める。お客様の承諾も必要(民法539条の2)。
- フランチャイズの加盟店がコースを売るなら、法定書面とクーリング・オフ・中途解約の責任は加盟店にある。本部の書式と指定機器を加盟前に確認する。
- 返金トラブルは、返金額、内容の認識違い、効果への期待の順で起きやすい。単価と精算方法、コース内容を書面に明記して予防する。
営業権と什器の譲渡で決めること
事務所が作成したエステサロンの営業権を什器備品とともに譲渡する契約書では、次のように定めました。
- 譲渡の対象を多数の品目の目録にした(エステベッド、スチーマー、ワゴン、超音波機器、吸引器、美顔器、基礎化粧品、店販品、ソファ、レジスター、複合機、電話機、リネン類、フットバス、精油など)
- 「毎月のロイヤリティなどの費用は一切生じない」と明記し、フランチャイズや業務提携と誤解されないようにした
- 引渡しは現状有姿、運搬費は譲受人の負担、引渡しの完了で所有権が移る
- 引渡し後は担保責任を負わず、不調・故障の保証もしない(譲渡人に有利な型)
この契約は譲渡人の側から作成したものです。譲受人の側に立つなら、引渡し前の動作確認と、主要な機器についての短期間の保証を求めたいところです。美顔器や痩身機器は高額で、故障したときの影響が大きいため、目録の中で機器ごとに「動作確認済み」「現状有姿」を区分する方法もあります。在庫の化粧品・店販品も譲渡する場合は、使用期限、製造販売元の表示、未開封かどうかを目録で特定します。
| 対象 | 必要な手続・対応 |
|---|---|
| 店舗物件の使用権 | 大家の承諾と、賃貸借契約の名義変更が別に必要 |
| 店名・SNSアカウント・口コミページ・予約システム・電話番号 | 譲渡の対象に含めるかを個別に決め、アカウントの移管手順を定める |
| お客様 | 権利として譲渡することはできない。顧客への案内や紹介への「協力」として定める |
| スタッフ | 雇用・業務委託の契約は、本人と改めて話し合う |
| 前オーナーの届出・許可 | 引き継げないことが多く、新たな届出が必要 |
前のオーナーが売ったコース・回数券をどうするか
エステサロンの譲渡で最も見落とされやすいのが、前のオーナーがすでに代金を受け取っているコースや回数券の残りの回数です。特定継続的役務提供に当たるコースであれば、お客様はいつでも中途解約して未提供分の返金を求めることができます。引継ぎの後にその請求を受けたとき、誰が施術を続け、誰が返金するのかを、譲渡契約で決めておく必要があります。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 承継する契約の一覧 | お客様ごとの契約内容、残りの回数、受領済みの前受金の額を一覧にして契約書に添付する |
| 施術の継続 | 承継する契約について、新しいオーナーが残りの施術を提供するかどうか |
| 前受金の扱い | 承継する契約の前受金相当額を、譲渡代金から差し引くか、別途精算するか |
| 承継しない契約 | 前のオーナーの責任で終了させ、返金も前のオーナーが負担する |
| お客様の承諾 | 契約上の地位を移すには、相手方であるお客様の承諾が必要(民法539条の2)。案内文と承諾の取り方を決める |
| 表明保証 | 一覧以外に前受金のある契約がないこと、法定書面を交付していることを、前のオーナーに表明・保証してもらう |
医療機器に当たる機器を譲渡する場合は、医薬品医療機器等法の販売・授与に関する規制がかかることがあります。機器の承認・認証の有無と、譲渡に必要な手続を、契約の前に確認しておきます。店名をそのまま引き継ぐ場合は、前のオーナーの債務について責任を負うことがあるため(会社法22条、商法17条)、前のオーナーの返金債務について責任を負わない旨の登記または通知を検討します。
フランチャイズに加盟する・本部を作る
事務所が作成したエステを含む複合業態のフランチャイズ加盟契約書では、初版で、非独占の加盟権、商標の使用許諾、加盟金と立上げ支援費の一括前払い・不返還、売上に応じたロイヤリティ(一定額未満は定額)、商圏の保護(売上の低迷などで解除)、月次報告(売上・顧客数・流入経路・設備の保守・事故や苦情)、終了後の表示の撤去と競業の禁止を定めていました。依頼者との協議を踏まえて、修正版では次の条項を加えています。
事務所の作成例:フランチャイズ加盟契約書の修正
ブランドの表示
修正前定めなし
修正後店内外の装飾、チラシ、ウェブ、SNS、接客・服装まで本部の方針に従い、消費者に誤認や不快感を与えない
加盟店の広告の違反が、本部のブランドに跳ね返るため
店舗の運営
修正前マニュアルの遵守のみ
修正後営業時間、サービスの提供方法、顧客対応をマニュアルどおりに行い、運営方法の変更は事前の書面承諾を要する。従業員の初期・継続研修の受講と、本部の是正勧告
サービスの品質を統一するため
立地・設備
修正前定めなし
修正後立地の選定・移転・改装の事前承認、内装・設備・業務用機器の指定業者の使用
ブランドの統一と、機器の安全性の確保
帳簿と調査
修正前定めなし
修正後帳簿の作成・保存と、事前の通知のうえでの立入調査
ロイヤリティの算定と、運営状況の確認のため
加盟店がエステのコースを販売する場合、特定商取引法上の役務提供事業者は加盟店です。法定書面の交付、クーリング・オフ・中途解約への対応の責任は加盟店が負います。加盟する前に、本部のマニュアルにある書式が法定の様式を満たしているか、本部が指定する機器が医療機器に当たらないか、エステで使ってよい出力・方法か、を本部に確認しておきます。
返金トラブルは、どこで起きるか
事務所が高額ダイエットプログラムの書面をレビューした際には、返金をめぐる紛争が起きやすい順番を、次のように予測して書面の修正を提案しました。
| 順番 | 争いになること | 予防策 |
|---|---|---|
| 1 | 中途解約の返金額 | 契約時の単価と精算方法を契約書面に記載し、単価表を別紙にして署名をもらう |
| 2 | サービス内容の認識の違い(「このサービスも含まれていると思った」「何回受けられるか聞いていない」) | コースごとの内容の違いを、金額以外の項目でも書面に並べる |
| 3 | 効果への期待とのずれ | 効果を保証しないことを具体的に書き、広告・カウンセリングの説明と一致させる |
| 4 | 検査・教材・キットの費用の控除 | どの時点で提供済みとするかを書面で決めておく |
あわせて、勧誘の場面の問題も返金の請求につながります。事実と違う説明や、重要な事項を故意に告げなかったことで結ばれた契約は、お客様が取り消すことができ(特定商取引法49条の2)、その場合は受け取った代金の返還が問題になります。
苦情・返金請求が届いたときの対応
| 段階 | 対応 |
|---|---|
| 受付 | 日時、方法、内容を記録する。内容証明郵便の場合は、差出日と到達日を確認する |
| 事実の確認 | 契約書面・概要書面の写し、交付日、担当者、施術の記録、カウンセリングシート、同意書を集める |
| 区分の判断 | クーリング・オフか、中途解約か、取消しか、施術事故の損害賠償か |
| 金額の計算 | 区分に応じて、全額返還、法定の上限による精算、損害の算定を行う |
| 回答 | 結論と計算の内訳を書面で示す。消費生活センターからあっせんの連絡があった場合も、同じ資料をもとに対応する |
| 再発防止 | 書面・トーク集・同意書の不備が原因なら、他のお客様の契約も含めて見直す |
相談の現場から:書類の不備が、経営を揺るがす
- 書面の不交付や記載の不備があると、クーリング・オフの8日間が進行せず、いつまでも解除される可能性があります。事務所の記事や案内書では、これを「ひな形を流用する最大のリスク」として繰り返し説明しています。「書いてあること」と「法定どおりに書けていること」は別のことです。
- 通知や請求を受け取った後に慌てて書類を見直すのではなく、開業時と、メニューや料金を変えるたびに、書面・規約・同意書を一式で点検しておくことが、最も確実な予防策です。
居抜き物件でエステサロンを開く場合
前のテナントの内装や設備を引き継ぐ居抜きでの開業では、造作の譲渡契約と、大家との賃貸借契約の両方が必要です。前のテナントが同じエステサロンだった場合は、機器や在庫まで引き継ぐことがあり、前の項で説明した営業譲渡と同じ論点が生じます。
- 造作・設備を目録と写真で特定し、所有者(前のテナントか大家か)を確認する
- 退去時の原状回復の範囲(スケルトンに戻すのか、引き継いだ状態に戻すのか)を、大家との契約で決める
- 前のサロンの店名・電話番号・SNSを引き継がない場合、前のサロンのお客様からの問い合わせへの対応を決めておく
- 前のサロンが売ったコースの施術を求めて来店するお客様への説明(当店とは別の事業者であること)を準備する
閉店するときの前受金
近年、脱毛サロンなどの経営破綻で、前払いしたコース代金が返らない被害が相次ぎ、前受金の扱いが社会問題になっています。閉店を決めたときは、残っているコースの施術を提供するか、返金するかを、お客様ごとに整理しなければなりません。
| 段階 | 対応 |
|---|---|
| 契約の洗い出し | コース・回数券・サブスクの契約者、残りの回数、受領済みの前受金を一覧にする |
| 方針の決定 | 閉店までに残りの施術を提供するか、未提供分を返金するか、提携先のサロンに引き継ぐかを決める |
| お客様への通知 | 閉店の予定日、残りの施術の予約方法、返金の方法と時期を、十分な期間をおいて書面やメールで知らせる |
| 引継ぎ | 提携先に引き継ぐ場合は、お客様の承諾を得る(契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要) |
| 決済・ローン | カード会社・クレジット会社への連絡と、未提供分の精算 |
開業の段階で前受金の保全措置を講じていない場合も、概要書面・契約書面にはその旨を記載します(施行規則92条1項1号ヌ・93条2項6号)。前受金を預かる事業であることを前提に、売上の一部を返金に備えて手元に残しておく資金計画が、結果としてお客様と店の両方を守ります。
よくあるご質問
エステサロンを譲り受けるとき、前のオーナーの回数券はどうなりますか?
契約上の地位を移すにはお客様の承諾が必要で、自動的には引き継がれません。承継する契約の一覧と残回数・前受金を譲渡契約に添付し、承継しない契約の返金は前のオーナーが負担すると定めておきます。
中古の美顔器やエステ機器を譲り受けるときの注意点は?
目録で機器を特定し、動作確認の有無と保証の範囲を決めます。医療機器に当たる機器は、販売・授与の規制がかかることがあるため、承認・認証の有無を確認します。
エステのフランチャイズに加盟すると、法定書面は本部が用意してくれますか?
本部が書式を提供することはありますが、特定商取引法上の責任を負うのは加盟店です。加盟前に、書式が法定の様式を満たしているかを確認しておきます。
お客様から内容証明で返金を求められたら、どうすればよいですか?
到達日と内容を記録し、契約書面・概要書面の写しと交付日、施術の記録、同意書を集めて、クーリング・オフ・中途解約・取消し・損害賠償のどれに当たるかを判断します。金額の内訳を書面で回答します。
エステの返金トラブルで最も多いのは何ですか?
中途解約の返金額をめぐる争いが最も起きやすく、次にサービス内容の認識の違い、効果への期待とのずれが続きます。契約時の単価と精算方法、コースごとの内容を契約書面に明記しておくことが予防策です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別のサロンに必要な対応は、メニュー、使用する機器、料金の受け取り方、勧誘の方法によって異なります。事務所の作成例・相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたエステサロン・美容施術サービスの契約書、法定書面、規約、同意書、業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 厚生労働省 / 国民生活センター