このページの要点
- 閉店は事業者の事情で施術を提供できなくなる場面で、民法の債務不履行の問題。中途解約の手数料を差し引く根拠は通常なく、返金は契約時の単価に未提供の回数を乗じた額が基本。
- 前受金の保全措置は、特定商取引法が一律に義務付けるものではなく、概要書面・契約書面への記載(施行規則92条1項1号ヌ・93条2項6号)と、財務書類の備置き・閲覧(法45条)が求められる。
- 通知は、閉店日、残りの施術の受け方、返金の方法と時期、問い合わせ先、申出の期限を一通にそろえる。期限を過ぎても返金請求権は当然には消えない(民法166条1項)。
- 他店への引継ぎは契約上の地位の移転で、お客様の承諾が必要(民法539条の2)。個人データの引継ぎは個人情報保護法27条5項2号・18条2項の範囲で行う。
閉店・倒産を決めたら、最初に何をするか
結論から言うと、最初にするのは閉店日の決定でも会員への告知でもなく、前受金のある契約の一覧を作ることです。前受金とは、施術を提供する前にお客様から受け取っている代金のことで、コースや回数券の未消化分、月額制の前払い分、予約時に預かっているデポジットなどが含まれます。閉店しても、これらに対応する施術を提供する義務、または提供できない分を返す義務は、事業者に残ります。
閉店の進み方は二つあります。一つは、返金に充てる資金を確保したうえで、計画的に店を閉める進み方です。もう一つは、資金が足りず、返金の原資が残らないまま営業を続けられなくなる進み方で、いわゆる倒産です。倒産には、裁判所の手続(破産など)に入る場合が含まれます。二つは別の場面ですが、最初の作業は共通で、前受金の一覧と、お客様ごとの未提供分の計算です。
閉店を決めてからの進め方(一例)
- 1 洗い出しコース、回数券、サブスク、物販の取り置き、チケット類を、お客様ごとに一覧にする。
- 2 方針「最終日までに消化する」「返金する」「他店に引き継ぐ」のどれを選べるかを、お客様ごとに決める。
- 3 原資と日付返金に充てられる資金と、閉店日までに提供できる施術の枠を数え、閉店日と通知日を決める。
- 4 販売の停止閉店を決めた日以降は、新しいコース、回数券、更新を受けない。予約サイトと広告も止める。
- 5 通知閉店日、残りの施術の受け方、返金の方法と時期、問い合わせ先、申出の期限を一通にまとめて知らせる。
- 6 実行と記録返金、決済会社への連絡、引継ぎを進め、誰にいつ何をしたかを記録する。
見落とされやすいのは、手順4の「販売を止める時期」です。閉店を決めたあとに、そのことを告げずに新しいコースを勧めると、契約の取消しを受けるおそれがあります。消費者契約法4条2項は、重要事項について消費者の利益となる旨を告げ、不利益となる事実を故意または重大な過失によって告げなかったために、その事実が存在しないと誤認して契約したときは、消費者が取り消せると定めています。特定商取引法46条1項2号も、顧客の判断に影響を及ぼす重要な事項を故意に告げないことを、行政の指示の対象にしています。事業譲渡で引き継ぐ側の整理は事業譲渡・居抜きのページにあります。
閉店したとき、契約と返金は法律上どう扱われるか
閉店は、お客様の側ではなく、事業者の側の事情で施術を提供できなくなる場面です。お客様が自分からコースをやめる「中途解約」とは組み立てが異なり、混同すると、中途解約の手数料を差し引いた返金額を案内してしまいます。
| 場面 | 主な根拠 | 事業者が差し引けるもの | 実務上の注意 |
|---|---|---|---|
| お客様が自分の意思でコースをやめる(中途解約) | 特定商取引法49条1項・2項 | 提供済みの役務の対価と、政令で定める額の範囲の損害額まで | 精算の考え方はクーリング・オフと中途解約のページ |
| 契約書面を受け取って8日以内(クーリング・オフ) | 同法48条 | 何も差し引けない。損害賠償・違約金のほか、提供済みの役務の対価も請求できない(同条4項・6項) | 受け取った金銭は速やかに返す(同条7項) |
| 閉店や事業の終了で、事業者が施術を提供できなくなった | 民法415条・541条・542条・545条 | 提供済みの施術の対価まで。解約手数料や違約金を差し引く根拠は通常ない | 返金は未提供分に対応する額。利息と、損害があれば賠償も問題になる |
| 天災などで、当事者双方の責めに帰することができない事由により施術を提供できなくなった | 民法536条1項 | 提供できなくなった部分について、お客様は未払分の代金の支払を拒める | 閉店は経営上の判断であり、双方に責任のない事由には当たらない |
閉店の場面の民法の流れを確認します。債務の履行が不能であるとき、お客様はその履行を請求できなくなり(民法412条の2第1項)、催告をしなくても直ちに契約を解除できます(同法542条1項1号。一部だけが不能のときは、同条2項1号により一部の解除)。解除すると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負い(同法545条1項)、金銭を返すときは、受領の時から利息を付けなければなりません(同条2項)。利息の率は法定利率で、民法404条が年3%を基準に3年ごとに見直すと定めています。解除をしても損害賠償の請求は妨げられません(同法545条4項、415条)。提供済みの施術は役務として完了しているため、返金の対象は未提供の部分と整理するのが一般的です。
特定商取引法の側からも、事業者の行為は監督の対象になります。特定継続的役務提供(政令で定める期間と金額を超えて継続的に提供する、エステなどの役務)の契約に基づく債務の履行を拒否し、または不当に遅らせることは、主務大臣の指示の対象で(同法46条1項1号)、従わないときは2年以内の業務の停止もありえます(同法47条1項)。該当するかどうかはエステは特定継続的役務提供かのページを参照してください。
規約に「サービスを終了する場合、既払の料金は返金しない」と書いてあることがあります。店側の債務不履行で生じた損害の賠償責任を丸ごと免れさせる書き方は、消費者契約法8条1項1号により無効です。返金そのものを否定する条項も、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するときは、同法10条により無効になります。返金を求める権利には時効があり、権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年で消滅します(民法166条1項)。通知で「期限までに申し出なければ返金しない」と書いても、期限が過ぎたことだけで権利が当然に消えるわけではなく、期限は手続を整理するための目安として使います。
前受金の保全は法律上の義務か:書面への記載、財務書類の閲覧、回数券と資金決済法
結論から言うと、特定商取引法の特定継続的役務提供の章(41条から50条)には、前受金の保全措置を講じることを義務付ける規定は見当たりません。法律が求めているのは、保全措置を講じているかどうかを書面に記載することと、財務の書類を備え置いて閲覧に応じることです。期間や金額が政令の範囲に満たないコースはこの章の対象外ですが、民法と消費者契約法は同じように当てはまります。
| 層 | 内容 | 根拠 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 書面への記載 | 先に5万円を超える金銭を受け取る取引(前払取引)では、前受金の保全措置を講じているか否か、講じている場合はその内容を、契約前の書面(概要書面)と契約後の書面(契約書面)に書く | 特定商取引法施行規則92条1項1号ヌ、93条2項6号 | 書き方は概要書面・契約書面のページを参照 |
| 財務書類の備置きと閲覧 | 貸借対照表、損益計算書、事業報告書(会社以外の者は、これらに準ずる書類)を、事業年度の経過後3か月以内に作り、契約に関する業務を行う事務所に備え置く。備え置いた日から3年を経過する日までの間、保管する | 同法45条1項、同規則105条 | 前払取引の相手方は、閲覧を求めることができ、費用を支払って謄本・抄本の交付も求められる(同法45条2項) |
| 回数券などの前払式支払手段 | 施術の回数が券面や電子的な記録に残り、提示して施術を請求できるものは、資金決済法の「前払式支払手段」に当たることがある | 資金決済法3条1項2号ほか | 下の表。有効期限の設計はサブスク・回数券のページ |
保全措置の中身も確認します。前受金保全措置は、金融機関の保証など、役務提供事業者が万一倒産した場合であっても、お客様が一般債権者に優先して弁済を受けられるようにする仕組みを指すと説明されるのが一般的です。一般債権者とは、担保や特別の保護を持たず、他の債権者と同じ順位で配当を受ける債権者のことです。この考え方に照らすと、「講じている」と書くには、倒産したときに優先して弁済を受けられる仕組みであることが必要と読めます。別の口座で前受金を管理することは資金繰りの規律として有益ですが、倒産時の優先を生むとは限らないため、書けるかどうかは内容次第です。
「講じていない」と書くこと自体は、法律の違反ではありません。ただしこの場合、閉店や倒産のときにお客様へ返す原資は、事業者の自己資金だけになります。反対に、実際には講じていないのに「講じている」と書いたり説明したりすると、契約に関する重要な事項について不実のことを告げる行為(特定商取引法44条1項8号)に当たるおそれがあります。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 対象になるもの | 金額、または役務の数量が券面や電子的な記録に残り、提示などで施術の提供を請求できるもの。書面の契約だけで、券・カード・アプリ上の記録がないコースは、通常この形ではない | 資金決済法3条1項2号 |
| 対象外になるもの | 発行の日から6か月以内に限って使えるもの | 同法4条2号、同法施行令4条2項 |
| 自家型発行者の届出 | 自分の店でしか使えない前払式支払手段(自家型)の発行者は、3月31日と9月30日の基準日の未使用残高が基準額を超えると、届出が必要。基準額は1,000万円 | 同法5条、3条2項、同法施行令6条 |
| 発行保証金 | 基準額を超える発行者は、基準日の未使用残高の2分の1以上を供託する。保有者は、この発行保証金から他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持つ | 同法14条1項、31条1項 |
| 事業をやめるとき | 発行の業務を廃止したときは、保有者に残高を払い戻し、60日を下らない一定期間内に債権の申出をすべきことなどを公告する。廃止の届出も必要。事業譲渡などで承継される場合は、払戻しの対象から除かれる | 同法20条1項1号・2項、33条1項1号 |
これらの規律は、届出をした自家型発行者(資金決済法3条6項)に対するものです。未使用残高が基準額を超えていない店は届出をしておらず、供託や払戻しの公告の義務は生じません。
会員台帳の作り方と返金額の計算
返金額は、台帳に「契約時の単価」が残っているかどうかで決まります。契約書面に、コースの総額、総回数、1回あたりの単価が書いてあれば、閉店時の計算は足し算と引き算で終わります。書いていなければ、後から単価を決めることになり、お客様との争いになります。
| 項目 | 記録する内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 契約の内容 | コース名、総回数、総額、契約時の1回あたりの単価、有効期限、書面の交付日 | 未提供分の計算の基礎になる。割引で買った場合は、割引後の金額で単価を出す |
| 提供の状況 | 提供済みの回数、残りの回数、予約済みの日程 | 最終日までに消化できる回数の計算に使う |
| 受け取った金額 | 現金、振込、カード一括、カード分割、ローンなど支払方法ごとの金額、入会金、関連商品の代金 | 返金の経路が支払方法ごとに異なる |
| 前払いに近いもの | 未使用のチケット、ポイント、体験券、デポジット、物販の取り置き | コース以外の前受金の抜け落ちを防ぐ |
計算例:閉店時の返金額(割引で買った回数券)
| 契約の内容 | 20回券、支払総額195,000円(通常価格は1回10,000円で200,000円のところ、割引) |
|---|---|
| 契約時の1回あたりの単価 | 195,000円 ÷ 20回 = 9,750円 |
| 提供済みの施術 | 6回 × 9,750円 = 58,500円 |
| 未提供の施術 | 14回 × 9,750円 = 136,500円 |
返金額:195,000円 − 58,500円 = 136,500円
通常価格の単価10,000円で提供済み分を計算し直すと60,000円になり、返金は1,500円少ない135,000円になります。契約時に定めた単価で計算するのが基本です。
入会金の扱いも決めておきます。「入会金は理由の如何を問わず返金しない」という規約の文言が、事業者の都合で施術を続けられなくなる場面にまで及んでいないかを確認します。入会時に完了する手続(カウンセリングや初回の肌診断)の対価であれば、提供済みの役務の対価として整理できる余地があります。入会すれば施術を受けられるという地位の対価という説明であれば、施術ができなくなったときに返さない理由が弱くなります。何の対価かは、契約の段階で書面に書いておきます。
計算例:閉店日までに消化できる回数の見込み
| お客様全体の残り回数 | 1,200回 |
|---|---|
| 通知日から閉店日までの営業日 | 48日 |
| 1日に提供できる施術の枠 | 12回(施術者の人数と施術時間から計算) |
| 理論上の最大消化数 | 48日 × 12回 = 576回 |
| 予約が埋まる割合を8割と見た場合 | 576回 × 0.8 = 約460回 |
最終日までに消化できるのは多くても約460回。残りの約740回分は、返金を選んでもらう前提で原資を用意する
全員に「最終日までに通ってください」と案内すると、予約が取れないお客様が出ます。消化できる枠を超える予約を受け続けることは避けます。
支払方法ごとの返金の経路
| 支払方法 | 返金の進め方 | 注意 |
|---|---|---|
| 現金・銀行振込 | 振込で返す。口座と本人の確認の手順を決める | 振込の費用は、別段の意思表示がなければ債務者である事業者が負担(民法485条)。返金額から手数料を差し引く書き方は、事業者の都合による返金では避ける |
| クレジットカードの一括払い | 決済会社を通じた取消しなどの手続になる。具体的な方法は加盟店契約による | お客様の口座に別に振り込むと二重返金になるおそれがある。決済会社に確認してから進める |
| クレジットカードの分割払い・リボ払い、ショッピングローン | 決済会社・ローン会社に、閉店の事実と対象契約を同じ内容で伝える。お客様は、事業者に生じている事由を、支払を請求する会社に対抗できる(割賦販売法30条の4、35条の3の19) | 契約から2か月を超えない範囲で全額を支払うものは、包括信用購入あつせんに当たらない(同法2条3項1号)。この抗弁は、支払の請求を受けたときに対抗できるというもので、既に支払った分の返還まで当然に求められるものではない点に注意 |
返金に充てる資金が足りないとき
全員の返金額を合計しても原資が足りないとき、よく見られるのは、連絡のあったお客様から順に全額を返す進め方です。しかし、先に連絡した人が全額を受け取り、後から連絡した人が受け取れないという結果は公平とは言いにくく、後の手続の中で問題にされるおそれがあります。資金が足りないときは、全員に同じ基準で未提供分を計算し、そのうえで原資の範囲で扱いを決めるという考え方が基本になります。次の数字は、考え方を示すための仮の例です。
計算例:原資が足りないときの考え方(仮の数字)
| 全会員の未提供分の合計 | 18,400,000円 |
|---|---|
| 返金に充てられる資金 | 9,200,000円 |
| 充当できる割合 | 9,200,000円 ÷ 18,400,000円 = 50% |
| 前の例の会員(未提供分136,500円)の場合 | 136,500円 × 50% = 68,250円 |
全員を同じ割合で扱った場合の、会員1人あたりの充当額:68,250円
実際の扱いは、手元の資金、他の債務、手続の種類によって変わります。破産手続に入ると、財産は破産管財人が管理し、お客様は債権を届け出て、一般債権者として配当を受ける形になります。手続そのものの進め方は、本ページでは扱いません。
会員への通知:内容、時期、方法と個人情報の扱い
通知は、閉店日、残りの施術の受け方、返金の方法と時期、問い合わせ先、申出の期限の五つがそろった一通にします。情報が分かれて届くと、お客様は「どちらが正しいのか」と問い合わせてくることになります。
通知に入れる項目
- 閉店日(最終営業日)と、残りの施術を受ける場合の予約の方法・締切日。
- 返金を受ける場合の対象(未提供の施術に相当する金額)と、計算の方法(契約時の1回あたりの単価に未提供の回数を乗じる)。
- 返金の方法(振込、カード取消しなど)と、返金を行う時期の目安。
- 申出の期限と、期限までに連絡がなかった場合にどうするか。
- 他店に引き継ぐ場合は、引継ぎ先の名称、施術の内容、同意しない場合の選択肢。
- 問い合わせの窓口、電話番号、受付時間。窓口が閉店日以降も続くこと。
時期について、特定継続的役務提供の章には、閉店の通知期限を定める規定は見当たりません。法律上の最短期間がないため、上の資金決済法の表にある払戻しの公告の60日という期間を一つの目安にして、2か月前後の余裕を見る考え方があります。上の消化見込みの計算で、消化できない回数が多く出るなら、通知は早いほどよいことになります。
手段は、郵送、メール・LINE、電話を組み合わせ、店頭の掲示は補助にとどめます。掲示は来店しない会員に届かないためです。送信や発送の記録を残し、戻ってきた分や返信のない会員には、別の手段で再度連絡します。
個人情報の面では、三つを確認します。第一に連絡先の利用です。個人情報取扱事業者は、利用目的をできる限り特定し(個人情報保護法17条1項)、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはなりません(同法18条1項)。予約の連絡や契約の履行に関する連絡を利用目的に書いてあれば、閉店と返金の案内はその範囲で整理しやすくなります。書き方は利用規約・プライバシーポリシーのページを参照してください。
第二に、引継ぎ先への提供です。合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合、その提供を受ける者は第三者に該当しません(同法27条5項2号)。ただし、承継を受けた側は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはなりません(同法18条2項)。施術の記録には既往歴や服薬など健康に関する情報が含まれることがあるため、引継ぎ先に渡す範囲は、施術を続けるために必要な範囲に絞ります。
第三に、閉店後の保管です。利用する必要がなくなった個人データは、遅滞なく消去するよう努めなければなりません(同法22条)。ただし、返金の記録や、財務書類の保管期間(上で見た3年)のように、残すものがあります。残すもの、消すもの、保管する期間と場所を、閉店の前に決めておきます。
お知らせ文の骨子(店舗を閉鎖する場合の一例)
本文
当店は、○年○月○日をもって営業を終了いたします。現在、コース・回数券・前払いのご料金が残っているお客様には、次のいずれかをお選びいただけます。(1) 営業最終日までに、残りの施術をお受けいただく。(2) 未提供の施術に相当する金額の返金を受ける。返金額は、ご契約時の1回あたりの単価に、未提供の回数を乗じた金額です。返金に要する費用は当店が負担いたします。
お手続
ご希望は、○年○月○日までに、同封の用紙、またはメール・LINEでお知らせください。期限を過ぎた場合も、返金のお手続は続けます。お申出のないお客様には、改めてご連絡いたします。
避けたいのは、「期限を過ぎた場合は権利が消滅します」という書き方です。返金請求権は期限の経過だけで消えるものではなく、消費者契約法10条でも問題になります。期限後の対応を書いておきます。
他店への引継ぎ・事業譲渡で終える場合
会員を他のサロンに引き継ぐ方法は、現実的な選択肢です。ただし、引継ぎは、お客様と事業者の間の契約の相手方を入れ替えることになります。契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位はその第三者に移転します(民法539条の2)。契約上の地位とは、契約に基づく権利と義務をまとめた立場のことです。お客様の承諾が要るため、事業者と引継ぎ先が合意しただけでは、お客様の契約は移りません。
| 引継ぎの形 | 必要なもの | 注意 |
|---|---|---|
| 他店が施術を引き継ぐ(契約上の地位の移転) | 引継ぎ先との合意、承継する契約の一覧、お客様ごとの承諾 | 承諾しないお客様には、返金か最終日までの消化を選べるようにする |
| 他店を紹介するだけ(契約は終了) | お客様との契約を終了し、未提供分を返金する | 紹介は返金の代わりにならない |
| 事業ごと譲渡する | 譲渡契約、承継する契約の一覧と前受金の精算、お客様の承諾 | 承継しない契約の返金を誰が負担するかを決める。進め方は事業譲渡・居抜きのページ |
規約に「当社が事業を譲渡する場合、会員はその譲受人への契約上の地位の移転にあらかじめ同意する」という条項を置くことがあります。実務ではよく見られますが、定型約款に当たる規約の条項でも、相手方の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものは、合意をしなかったものとみなされます(民法548条の2第2項)。消費者契約法10条の問題にもなります。実務で見られる整理は、事業譲渡の前に、承継予定者の名称、承継の時期、承継の内容を会員に通知し、同意しない会員は効力が生じる日までに退会を申し出られるようにする形です。退会を選んだ会員には、未提供の部分を返金します。
事業ごと譲渡する契約では、譲渡する対象の特定が紛争の火種になります。「事業一式」「付随する取引関係」といった包括的な書き方では、顧客契約が含まれるのか、前受金の債務が含まれるのかが後から争われます。別紙で、承継する顧客契約の一覧、前受金の額、承継しない契約の返金主体を特定し、お客様の承諾の取り方まで条文にしておきます。
よくある失敗と直し方
閉店や事業の終了に関する条項は、他の業種の規約の文言がそのまま使われている場面が目立ちます。エステでは前受金が大きく、消費者保護の規律も強いため、次のような条項は直す必要があります。以下は、実務で多い書き方と直し方の例です。
閉店・事業終了に関する条項の比較(一般的な例)
事業者の都合で提供できなくなった場合の返金
避けたい書き方当店の都合によりサービスの継続が困難となった場合は、未使用分の回数に対し、残り回数分の半額を返金します。
整えた書き方当店の都合により施術を提供できなくなった場合は、未提供の施術に相当する金額(契約時の1回あたりの単価に未提供の回数を乗じた額)を返金します。
半額にすると、提供していない施術の対価の半分を事業者が取ることになります。事業者の都合による場合は、手数料や違約金を取る根拠が通常なく、消費者契約法10条の問題にもなります。
不可抗力の範囲
避けたい書き方地震、感染症、法令の改廃その他の不可抗力により、サービスの提供が一時的または恒久的に困難となった場合、当店は履行責任を免れる。
整えた書き方不可抗力は、天災、感染症、行政の命令など、当店の責めによらない事由に限る。経営上の判断による店舗の閉鎖やサービスの終了は不可抗力に含めず、第○条(事業の終了)による。
「恒久的に困難」に閉店を含めてしまうと、経営の行き詰まりによる閉店でも履行責任を免れると読まれかねません。
サービス終了時の免責
避けたい書き方サービスの終了に伴い、既に支払われた料金は返金せず、お客様に生じた損害について当店は一切責任を負わない。
整えた書き方サービスを終了するときは、未提供の施術に相当する金額を返金する。返金の方法と時期は、終了の通知に記載する。
責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条1項1号により無効です。返金しない旨の条項も、同法10条の問題になります。
返金を事業者の裁量にする書き方
避けたい書き方恒久的にサービスを終了する場合、未提供分については当店の裁量により返金または代替措置を講ずる場合がある。
整えた書き方未提供分は返金する。代替の施術や他店への引継ぎは、お客様が承諾した場合に限って行う。
「場合がある」と書くと、返金を受ける権利がどこにあるのかが読めません。選択権はお客様にあることを書きます。
事業の終了・事業の承継の条項例(一般的な設計の一例)
第○条(事業の終了)
当店は、店舗の閉鎖または本サービスの全部の終了をする場合、終了日の○日前までに、お客様の登録された連絡先への通知と、店舗およびウェブサイトでの告知により、その旨をお知らせします。通知には、終了日、残りの施術の受け方、返金の方法と時期、問い合わせ先を記載します。
第○条(終了時の精算)
お客様は、終了日までに、残りの施術を受けるか、未提供の施術に相当する金額の返金を受けるかを選ぶことができます。返金額は、ご契約時の1回あたりの単価に未提供の回数を乗じた額とします。返金に要する費用は当店が負担します。本条は、当店の都合による終了のすべてに適用します。
第○条(事業の承継)
当店が本サービスにかかる事業を第三者に承継させる場合、当店は、承継予定者の名称、承継の時期、承継の内容を、効力が生じる日の○日前までにお客様に通知します。お客様が承継に同意しない場合は、効力が生じる日までに退会を申し出ることができ、この場合は前条により精算します。
ヒヤリングで確認すること、そして起きがちなこと
閉店の相談では、書類を作る前に、事業者の状況を確認します。次の問いは、答えによって通知の時期や返金の方法が変わります。
閉店・事業終了のヒヤリングの問いと、問いを置く理由
閉店の理由と、希望する時期は。自主的な閉店か、事業の譲渡か、資金繰りの悪化か。
返金の原資が足りるかどうかで進め方が分かれる。引継ぎ先が見込めるなら、承諾の取り方も変わる。
前受金のある契約の種類は。コース、回数券、月額制、チケット、ポイント、デポジット、物販の取り置きのどれがあるか。
台帳の抜け落ちが、閉店後の返金請求の原因になる。コース以外の前払いは特に漏れやすい。
契約書面に、前受金の保全措置について何と書いたか。
「講じている」と書いたなら、その内容の裏付けが要る。「講じていない」なら、返金の原資を自己資金で考える前提になる。
支払方法の内訳は。現金、振込、カード一括、カード分割、ローンの割合は。
返金の経路が違う。分割・ローンは、決済会社との連絡が先に必要になる。
回数券は紙か、アプリか、書面のみか。残りの回数が券面や記録に残っているか。
残りの回数が記録されるものは、資金決済法の対象になりうる。基準日の残高も確認が要る。
起きがちなこと
- 閉店を決めたあとも、予約サイトに割引コースを載せ続け、閉店の直前に新しい契約を結んでしまう。
- 台帳が回数券とコースだけで、チケット、ポイント、デポジット、取り置きの商品が抜け落ちている。
- 「閉店は不可抗力だから返金しない」と案内して、規約の不可抗力条項を閉店にまで当てはめる。
- 連絡のあったお客様から順に全額を返し、後から連絡した人が受け取れなくなる。
よくあるご質問
エステサロンを閉店するとき、前受金の保全措置は法律上必要ですか?
特定商取引法の特定継続的役務提供の章には、保全措置を講じる義務を定める規定は見当たりません。法律が求めているのは、先に5万円を超える金銭を受け取る取引で、保全措置を講じているか否かと、その内容を、概要書面と契約書面に記載することです(施行規則92条1項1号ヌ、93条2項6号)。あわせて、貸借対照表などを事務所に備え置き、相手方の閲覧に応じる必要があります(同法45条)。
閉店するとき、お客様への返金額はどう計算しますか?
契約時の1回あたりの単価(支払総額を総回数で割った額)に、未提供の回数を乗じた額が基本です。たとえば195,000円の20回券で6回使った場合、1回9,750円、未提供は14回で136,500円になります。事業者の都合で提供できなくなった場面では、中途解約の手数料を差し引く根拠が通常なく、振込の費用も事業者が負担します(民法485条)。
閉店を決めたあと、新しいコースや回数券を売っても問題ありませんか?
閉店の予定を告げずに勧めると、問題になります。消費者契約法4条2項は、利益となる旨を告げ、不利益となる事実を故意または重大な過失によって告げなかったときの取消しを認めています。特定商取引法46条1項2号も、重要な事項を故意に告げないことを指示の対象にしています。閉店を決めた日以降は、新規の販売と更新を止めるのが基本です。
他店に会員を引き継ぐ場合、お客様の同意は必要ですか?
必要です。契約上の地位の移転には、契約の相手方であるお客様の承諾が要ります(民法539条の2)。規約に事業譲渡時の同意が書かれていても、承継予定者、時期、内容を事前に通知し、同意しないお客様は退会して未提供分の返金を受けられるようにするのが、実務で見られる整理です。個人データの引継ぎは、個人情報保護法27条5項2号と18条2項の範囲で行います。
返金の申出の期限を過ぎたお客様には、返金しなくてよいのですか?
期限の経過だけで返金を免れるとは言えません。返金を求める権利には時効があり、権利を行使できると知った時から5年などで消滅します(民法166条1項)。期限後は返金しない旨の条項は、消費者契約法10条の問題にもなります。期限は手続の目安として設け、期限後も再度の連絡と返金の手続を続ける書き方が安全です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別のサロンに必要な対応は、メニュー、使用する機器、料金の受け取り方、勧誘の方法によって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認できます。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 特定商取引法ガイド / 厚生労働省 / 国民生活センター